医療法人の非営利性

医療法人の非営利性 医業経営

「医療は非営利を求めらているから、利益追求をしてはいけない」と漠然と考えている方が多いのではないでしょうか?

しかしこの考え方は間違いです。
医療法では利益の追求を否定しているわけではありません。

え?そうなの? 
医療機関は儲けちゃだめなんだと思っていたよ
でも、医療機関だって利益を上げなければ経営していけないよ。
じゃあ、医療は非営利ってどういうことなの?

1.個人診療所は無関係

そもそも「医療は非営利」の医療とは何を指すのでしょうか? 

「非営利」の根拠としてよく引き合いに出されるのは 医療法第7条の第6項です。 

第7条 病院を開設しようとするとき、医師法第16条の4第1項の規定による登録を受けた者及び歯科医師法第16条の4第1項の規定による登録を受けた者でない者が診療所を開設しようとするとき、又は助産師でない者が助産所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事の許可を受けなければならない。 

(中略) 

6 営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第4項の規定にかかわらず、第1項の許可を与えないことができる。 

医療法7条(一部抜粋) 

確かに医療法第7条6項には、営利を目的とする場合には「許可を与えないことができる」と書かれています。ここでの許可とは、病院を開設する時と、医師又は歯科医師でない者が診療所を開設する場合(=医療法人が開設する時)の許可を指します。 

・・・つまりどういうこと?
営利目的の場合に、
開設の許可を与えられないのは病院と医療法人だということ

そもそも個人診療所の開設はこの条文に該当せず、許可を必要としません。 

「非営利」の原則が適用されるのは、「医療」ではなく、
病院」と「医療法人」という事になります。 

ですから個人診療所を開設する場合は、開設者が診療所の経営とは別にマンション経営をしたり、飲食店を経営することも可能です。 

2.非営利=「利益を追求しない」?

医療法人が非営利法人であることは間違いありません。
しかし、医療法人の非営利性を「利益を追求しないこと」と解釈するのは誤解です。 

医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。 

医療法第54条 

この条文は医療法人が医業、または歯科医業を行うことによって利益を獲得し、それを法人の構成員に分配することを禁止しています。 

つまり、利益を否定しているわけではなく、利益を分配することを禁止しているのです。 

ですから、利益を内部留保したり、新たな設備投資に使う分には何ら問題はありません。 

法人の構成員って、スタッフや理事長などの役員だよね?
その人たちにお金を払えないってこと?
もちろんスタッフや役員への給料の支払いが利益の分配に当たるわけではないよ。
給料は必要経費だからね。
利益とは収入から必要経費を差し引いたものを言うんだ。

医療法では利益を法人の構成員に分配すること」を禁止しています。
ですから、法人からお金を支払うことが即利益の分配となるのではなく、一般的に妥当な必要経費として支出することは利益の分配に該当しません。 

例えば、理事長が診療所の土地建物を所有している場合、医療法人がその家賃を支払ったとしても、それが近隣の家賃相場並みであれば問題ないのです。 

一方で次のような行為は、配当類似行為として事実上利益の分配に当たるとされ、禁止されています。 

  • 近隣の土地建物の賃借料と比較して、著しく高額な賃借料の設定 
  • 収入等に応じた定率賃借料の設定 
  • 役員等への不当な利益の供与 
  • MS法人との業務委託で、不当に高額な委託費 

3.医療法人の業務範囲って? 

医療法人には非営利性が求められることから、一般企業のように定款に記載すればどのような事業でも出来るわけではありません。 

参考: 厚生労働省 医療法人・医業経営のホームページ  医療法人の業務範囲 平成31年3月29日現在(pdf)

医療法人が行うことができる業務範囲は次の通りです。 

(1)本来業務 

事業の中心となる業務です。病院・診療所及び介護老人保健施設の運営がこれに該当します。 

(2)付随業務 

医療法などに具体的に定められている業務ではなく、「本来業務」に付随する下記のような業務を指します。 

  • 病院等の敷地内で行われる駐車場業・売店の営業・自販機の設置 
  • 病院に通院する患者の搬送業務など 

付随業務は本来業務の一環と解釈されるため、定款に記載されることはありません。 

(3)附帯業務 

医療法第42条に規定されている業務です。
本来業務に支障のない限り、 下記のような業務を行うことが許されています。

  • 医療関係者の養成または再教育(看護師、理学療法士などの養成所)
  • 医学または歯学に関する研究所の設置
  • 医療法第39条第1項に規定する診療所以外の診療所の開設(巡回診療所、へき地診療所など)
  • 疾病予防のために有酸素運動を行わせる施設の設置
  • 疾病予防のために温泉を利用させる施設の設置
  • 保健衛生に関する業務(薬局、鍼灸院、通所介護施設など)
  • 有料老人ホームの設置

附帯業務を行うためには、定款変更手続きを必要とします。 

(4)収益業務 

下記のような「収益業務」を行うことは、非営利性に即していないとされ、通常は許されていません。

  • 介護用品等の販売 
  • 医療機器の貸付業 など 

ただし認定を受けた社会医療法人、特別医療法人のみ認められます。

4.物販が許される条件

コブタブランドのオリジナルグッズ販売はダメって前に言ってたよね?
実は物販が許される場合もあるんだ。
どんな場合に許されるのかな?


これまで説明したように、利益を構成員に分配しない限り、非営利性に抵触することはありません。 

しかし物販は医療行為ではないため、「付随業務」の要件を満たす業務である必要があります。 

付随業務の要件とは主に

  1. 患者を対象とした行為であること 
  2. 療養の向上を目的とした行為であること 

の2点とされています。 

販売される場所が医療機関の建物内であり、医師によって商品が「療養の向上に役立つ」と判断されれば、物販を行うことが可能なのです。 

平成26年、厚生労働省は、医療機関がコンタクトレンズやサプリメントなどを販売することが場合によっては許可される旨の通達を出しています。
「医療機関におけるコンタクトレンズ等の医療機器やサプリメント等の食品の販売について」(平成26年8月28日付け厚生労働省医政局総務課事務連絡)(pdf)

さらに具体例として、 以下は「療養の向上を目的として行われる」事例として許可されるとしています。

眼科医療機関の医師が診察を行い、コンタクトレンズの装用による視力補正や治療を目的としたコンタクトレンズの交付が妥当であると判断し、その診察後に患者に対してコンタクトレンズを当該医療機関が交付する場合

医療機関におけるコンタクトレンズの販売等に関する質疑応答集(Q&A)の送付について(平成27年4月17日付け厚生労働省医政局総務課事務連絡)(pdf)
サプリメントやコンタクトレンズなら、販売してもOKってことだよね!
きちんと条件を備えていれば、の話だよ!

気を付けたいのは、医療提供又は療養の向上の一環として行うものが、あくまで 限定的に附随業務として認められているという点です。

サプリメント等の販売が全面的に認められているとついつい勘違いしがちですが、そうではありません。

例として、皮膚科でデンタルフロスは販売できません。なぜなら皮膚科の療養とデンタルフロスは関連性がないからです。

またその医療機関に関係するものであっても、通信販売はできません。通販は患者を対象にした行為とは認められないからです。


いかがでしたか?
「医療は利益追求してはいけない」「医療法人は物販してはいけない」という考え方は、必ずしも正しくないと理解いただけたでしょうか。

むしろ利益を上げなければ、病院は早晩潰れてしまうでしょう。 

医療法人にできること、できないことを正しく理解し、上手に運営に生かしていきたいものです。

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