前半では令和元年の東京都(第1回)を例に、医療法人設立の仮申請までの手続きを見てきました。
今回はその続きです。
令和元年の東京都(第1回・8月申請)を例に、本申請を経て認可書の交付、その後の流れを見ていきましょう。
1.行政庁による仮申請書類の審査・補正指示(9~12月)、本申請の準備
仮申請後、審査に3か月ほどを要します。
その間、提出した設立認可申請書について、自治体側との面談などで指示や確認が入ることがあります。
書類や情報の追加を要求されることもあります。
また、保健所などの関係機関への照会や実地調査、代表者の面接などが行われます。
提出書類が不足している、記入漏れが多い、確認できない事項が多いなど、
内容に著しく不備があると申請が取り下げられる場合もあります。
不安な方は、早いタイミングで専門家に助けを求めるのが良いでしょう。
またこの間、後の本申請に備え、債権者や賃貸人へ連絡をしておきましょう。
2.本申請書類の提出(12月末まで)
本申請への許可が出たら、仮申請で提出した書類に捺印をして提出します。
提出部数は正本と副本の2部で、正本は東京都保存用、副本は認可書添付用です。
控えに収受印が必要な場合は必要部数を追加して提出します。
本申請書類は持参のみの受付となっています。
捺印には実印を用います。
捺印をお願いするのは、役員、社員、金融機関、リースの契約先、賃借人等多岐にわたります。
各方面にはあらかじめ連絡、相談をしておき、スムーズに進められるよう準備しましょう。
正本と副本の書類は以下のとおり準備します。
押印欄のある申請様式は、原則、正本・副本とも原本が必要です。
正本 | 副本 | |
---|---|---|
不動産鑑定評価書 | 原本 | 写し |
負債残高証明及び債務引継承認願 | ||
不動産賃貸借契約引継承認書(覚書) | ||
リース引継承認願 | ||
土地・建物登記事項証明書 | ||
印鑑登録証明書 | ||
基金拠出契約書、拠出申込書 | 写し | 写し |
不動産賃貸契約書、その他契約書 | ||
医師(歯科医師)免許証 |
3.医療審議会への諮問・答申(1~2月ごろ)
医療審議会による審議が行われます。
医療審議会は、医療法に基づき設置される都道府県の附属機関で、
医療法人の設立・解散の認可などを、知事の諮問に応じて審議します。
4.設立認可書の交付(2月中旬~下旬ごろ)、法務局への法人設立登記申請(2月下旬ごろ)
医療審議会による審議の後、設立認可書が交付されます。
医療法人設立認可ののち2週間以内に、主たる事務所の所在地の法務局へ設立登記申請をします。
登記が完了後、東京都に登記事項の届出をすることで医療法人設立が完了します。
でも診療所を開設するまでに、まだまだやることがあるよ。
5.保健所での手続き(3月~4月上旬ごろ)
管轄の保健所に対し、診療所の「開設許可申請」を提出します。
保健所の許可がないと診療を始めることが出来ませんので、必要書類は早めに用意しておきましょう。
また、エックス線装置を使用する診療所であれば、「エックス線装置備付届」を開設許可申請とともに提出します。
開設が許可され、診療所を開設した後に「開設届」、加えて個人診療所の「廃止届」を提出します。
(1)開設許可申請
法人の登記が完了したら、開設許可申請を行います。
通常、開設許可申請には手数料がかかります(1万8千~2万円程度)。
添付書類
書類名 | 注意事項 |
---|---|
定款の写し | 許可を受けようとする施設が記載されていることを確認。 法人による原本確認をしたものを提出する。 |
法人の登記事項証明書 | 発行後6ヶ月以内のものを添付。 |
土地及び建物の登記事項証明書 | 発行後6ヶ月以内のものを添付。 |
土地及び建物の賃貸借契約書の写し (賃借する場合のみ) |
原本確認のため、原本も持参。 転貸による契約の場合は、所有者の承諾書を併せて添付。 |
敷地の平面図 | ビル内の診療所の場合は、利用する階全体の平面図。 |
敷地周囲の見取図 | 道路と建物の位置関係がわかるもの。 |
建物の平面図 | 縮尺1/100以上、各部屋の用途を明示する。 |
エックス線診療室放射線防護図 | 平面図及び立面図、縮尺1/50(歯科は1/50又は1/25)、壁及び鉛の厚さの記載。 |
案内図 | 最寄の公共交通機関等からの案内図。 |
(2)診療用エックス線装置備付届
エックス線装置を使用する場合は、設置から10日以内に 「診療用エックス線装置備付届」を提出します。
通常、開設許可申請書類と同時に届け出ます。
診療用エックス線装置備付届に記載する「管理者」は、法人ではなく
診療所の管理者個人の名前と住所になるので注意が必要です。
また、届出書には「漏えい放射線測定結果報告書」を添付しますので、
装置の設置が決まった時点で、専門業者に作成をお願いしておきましょう。
添付書類
- 漏えい放射線測定結果報告書
(3)立会検査
開設許可申請の書類を提出した後に、保健所による立会検査があります。
検査時には院内掲示や医薬品の管理体制、備え付けるべき文書などについての指摘を受けるケースが多いようです。
エックス線装置備付届を提出した場合は、この時同時にエックス線装置の確認も受けられることがあります。
検査後、大きな問題がなければ「許可書」が交付されます。
この時点で、法人としての診療を開始する許可が出たことになります。
必要な手続きも残りあと少し!
(4)開設届
いよいよ医療法人としての診療所運営がはじまりました。
診療所の開設後10日以内に、開設届を提出します。
添付書類
書類名 | 注意事項 |
---|---|
管理者の臨床研修等修了登録証の写し 及び免許証の写し | 原本確認のため、原本も持参。 臨床研修等修了登録証は、H16.4(歯科はH18.4)以降に免許取得の方が対象です。 |
管理者の職歴書 | 現住所、氏名、生年月日、最終学歴及び職歴を記載し、押印すること。 職歴は、就職・退職を明確に記載し、最後の行は「〇〇診療所(今回開設した診療所)の管理者となる」で終わるようにすること。 |
診療に従事する医師、歯科医師の臨床研 修等修了登録証の写し及び免許証の写し | 保健所によっては提出を求められないことがあります。 |
(5)廃止届、診療用エックス線装置廃止届
診療所の開設が許可された後に、個人診療所の廃止届を提出します。
通常は開設届と同時に提出します。
また必要に応じ、廃止日より10日以内に診療用エックス線装置廃止届を提出します。
診療用エックス線装置廃止届に記載する「管理者」は、法人ではなく
診療所の管理者個人の名前と住所になるので注意が必要です。
6.地方厚生局での手続き(4月上旬~5月上旬)
(1)保険医療機関指定申請(4月・指定の締切日まで)
保険医療機関の指定を受ける場合は、地方厚生局への申請が必要です。
保険診療を柱とした診療所では、間を開けず保険診療報酬を請求できる状態にしておくことが大変重要となります。
それにはまず、厚生局の直近の申請「締切日」を確認し、必ず間に合うように保険医療機関指定申請を済ませなくてはなりません。
毎月の締切日は、事業所ごとに設定されており、厚生局のホームページに掲載されています。
東京事務所では現在のところ、毎月10日前後に設定されています(10日が休日の場合は前倒し)。
保健所へ開設届を提出してから厚生局の申請期限日までは、あまり日数がありませんので注意が必要です。
添付書類
- 許可書および開設許可申請書の写し
- 開設届の写し
- 保険医(管理者を除く)の氏名、登録の記号、番号、担当診療科名を記載した書類 など
保険医療機関 指定日の「遡及」
通常、保険診療を開始できる「指定日」は、申請の翌月1日となりますが、
いくつかの条件をクリアできれば指定日の「遡及」が認められ、 申請月の1日にまでさかのぼることが出来るようになります。
つまり医療法人設立後、間を開けず保険診療報酬を請求するためには、指定日の遡及を願い出ることを忘れてはならないのです。
(2)保険医療機関廃止届(指定申請の締切日まで)
保健医療機関指定申請の際、個人診療所の保険医療機関廃止届を一緒に提出します。
添付書類
- 廃止届の写し
- (旧個人診療所の)保険医療機関の指定通知書
(3)施設基準届出(5月・指定の締切日まで)
施設基準等に係る診療報酬を引き続き算定する場合は、保健医療機関指定申請を提出した後、
届出を再提出する必要があります。
こちらも「締切日」を厳守した上で、遡及を願い出ることを忘れないようにしましょう。
7.その他の届出(4月上旬~)
医療法人を設立した後には、 株式会社等を設立した場合と同様、
銀行口座の開設、税務署への税務関連の手続き、都道府県税務署への地方税の手続き、労働保険、社会保険関連の手続きなどが必要になります。
書類の数も提出先も多岐にわたり、大変手間がかかりますが
法人の運営に関わる大事な手続きですので、税理士や社労士と相談して進めるとよいでしょう。
ようやく安心して診療に専念できるね。
でも水を差すようだけど、これから運営していくのもなかなか大変だよ。
毎年書類をいっぱい作らなきゃいけないからね。
以上、こちらでご紹介したのはあくまでも東京都(令和元年 第1回・8月申請)の例です。
都道府県によって手続き内容は多少異なりますのでご注意ください。
(本記事は令和2年1月31日時点の情報を基に書かれています)
登記簿を手にすると実感がわくなあ。