医療法人化のデメリット

医療法人

診療所を運営している方は、「医療法人にした方がいいのかな?」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか? 

医療法人にすると節税できるんでしょ?
うん、そうとも言える。けど、良いことばかりじゃないよ。

医療法人化すると「節税できる」等と耳にしたことはありませんか? 

事実、医療法人化には節税というメリット面があります。 
ですが、同時にさまざまな制約が生まれますし、運営の手間も繁雑になります。 

法人化のメリット、デメリットをしっかりと理解したうえで、個々の診療所の状況を鑑み、法人化を進めるべきでしょう。 

まずは医療法人化のデメリットから見ていきましょう。 

1.手続きが繁雑になる

医療法人については下記のように、都道府県等への定期的な届出・報告の義務、法人内の運営方法などがルール化されています。

定期的に届け出るもの
  • 決算報告の届出(年1回)
  • 資産総額の登記(年1回)
  • 役員重任の登記(2年に1回)

運営上の義務
  • 社員総会の開催(年2回)
  • 理事会の開催(年2回)
  • 監事による監査(年1回)

その他にも、法人名や所在地の変更など、定款の記載事項を変更する際には、その都度手続きが必要となりますし、
従業員や診療時間の変更の届出は、法人化以前と同様に必要です。

2.運営費用がかさむ

(1)社会保険の加入義務がある

医療法人は、従業員の人数に関係なく社会保険の強制加入対象となります。
社会保険料は給与の約30%。そのうち1/2は法人で負担しなければなりません
多くの従業員を雇用する場合は負担が大きくなります。

給与の3割も国にとられちゃうの? それに実際に支払った給料の全部が従業員の元に入るわけじゃないって、なんだか悲しいよ。
負担は大きいけど、従業員のための制度だから悪いことばかりでもないよ。

理事長が社会保険に加入できるという点は、逆にメリットとも言えます。
個人開業の診療所だと、事業主である院長は国民年金に加入する選択肢しかないためです。

加えて従業員を採用する際にも、社会保険に加入できるということは、募集条件として有利に働くと考えられます。

ところで、ぶた君は医師国保って加入してる?
もちろんだよ。もしかして法人化したら医師国保をやめなきゃいけないの?
医師国保って?

医師会に所属する医師やその家族、従業員が加入できる医師国民健康保険(医師国保)は、保険料が年収にかかわらず一律で、かつ事業者の保険料負担義務がないため、従業員が少ないクリニックで採用されているケースが多いです。

医療法人化後も医師国保をそのまま継続することができますが、法人化以降に新規に加入することはできません。

医療法人化を予定しているのであれば、あらかじめ医師国保に加入しておくと保険料の節約になる可能性があります。
なお医師会によっては医師国保が存在しない都道府県もあります。

(2)税理士・司法書士・行政書士等 依頼費用が増える

法人化すると各種申告、申請などの手間が増える上、専門的な知識も必要とされてきます。
時間の節約のため、また大きな失敗を避けるためにも、設立時や運営の事務手続きは専門家に依頼するのが賢明でしょう。

院内に事務専門スタッフを置く場合も考えられますが、その場合も人件費や研修費がかかります。
いずれにせよ、事務手続きに係る費用の増加は避けられません。

3.ドクターの資金自由度が低くなる

医療法人化すると、理事長がプライベートで使えるお金は、役員報酬として支払われたお金のみになり、法人の資金とは明確に区別されます。

法人にしたら、自由になるお金が減っちゃうんだ…

お金が足りないからと言って、医療法人の資金を理事長が個人的に使用することは原則として認められません。もし勝手に使用した場合は、法人から理事長への借金とみなされてしまいます。

またこういった行為は、融資を行う金融機関からの信頼を失いかねず、新たな融資を受けにくくなることも考えられます。

そもそも無駄遣いはダメだよ!

理事長個人のお金が足りない場合には、役員報酬を増額することでこういったトラブルは避けられます。
しかし、役員報酬を変更する機会は年に1回しなかく、報酬を増やしたとしても、それだけ所得税や住民税が増えてしまうので、報酬額はよく考えて決定しましょう。

4.業務内容に制限がある

医療法人では、業務内容に制限があります。

サプリメント等の物販は条件付きで可能ですが、通信販売は認められません。その他、アパート経営や病院敷地外での駐車場など、不動産経営もできません

医療法人としてやってもいい業務は「医療法人の業務範囲」として明確に定められており、それ以外の業務を行うことは認められていないのです。

病院の中でコブタブランドのオリジナルグッズ販売を考えてるんだ。
ネット通販もはじめるの。いい考えでしょ。
だめだめ。絶対ダメ。医療法人のこと、もっと勉強してね…。

5.負債の引継ぎができないことも!?

医療法人化の際、法人に引き継ぎが認められている負債は、内装や医療機器など「設備投資」にかかわるものです。

つまり、運転資金」としての借入金は、法人に引き継ぐことが認められていないのです。個人事業主として開業後間もない場合など、初期の運転資金に充てた借金がまだ多く残っているドクターは要注意です。

前述のとおり、法人と理事長個人の資金は別に管理されますから、引き継ぎが認められなかった負債は、理事長が自身の役員報酬の中から返済することとなります。
また当然ながら、引き継げなかった負債の支払利息は、法人の経費にはなりません。

法人に引き継げない負債が大きく、事前に考えていた節税効果が薄れたため、法人化後に後悔するケースもよく聞きます。法人化の前に、しっかりとシミュレーションをすることが重要です。
また、個人診療所で借り入れする際には、安易に設備投資分まで「運転資金」として借りないように気をつけましょう。

6.乗っ取りの可能性も!?

最近知り合ったクマ山さんって、経営のこととかすごく詳しいんだよ。社員になりたいって言ってるから、追加してあげようかな?
えっ?その人は本当に信用できるの??
社員とは?

医療法人運営の核となる重要な構成員で、株式会社の株主に近い立場です。
パートやアルバイトに対しての、いわゆる正社員とは全く違います。
医療法人における最高意思決定機関は、この社員で構成される「社員総会」で、社員はそれぞれの出資額とは関係なく、一人あたり一票の議決権を持っています。

社員総会を開き、社員の過半数の議決があれば、法人のあらゆる重要事項を決められます。

一般的にあまり知られていないこの「社員」という存在を悪用した医療法人の乗っ取り行為は、最も深刻なトラブルのひとつです。
社員の過半数さえ握れば、理事長を医療法人から追い出すこともできるのです。

信用のおけない人物や、よく知らない外部の人間を社員に選任することは、絶対に避けなくてはなりません。

7.解散するのも一苦労

急に気が変わって、医療法人の経営をやめたくなったらどうしたらいい? いつかカフェをオープンするのがあこがれなんだよね。
医療法人は地域の医療を支える大事な機関だから、そう簡単にはやめられないよ。

解散事由によって手順は異なりますが、医療法人の解散には都道府県知事へ何らかの手続きが必要です

例として、
社員総会決議による解散の場合は「解散認可申請」が必要です。
解散認可申請の仮申請受付時期は限られており(東京都の場合、年に2回)、事前の審査、本申請を経て、認可が下りるまでには半年ほどかかってしまいます。

都道府県への届出以外にも、法務局への解散の登記なども必要です。

8.残余財産が国のものになる!?

医療法人を解散すると、法人のお金を国にとられちゃうって聞いたんだけど…

持分の定めのない医療法人の場合、解散時の残余財産の帰属先は国や地方公共団体等となり、出資者は分配を受けることができません。
しかしながら、前もって解散時期を決め、役員報酬や役員退職金の支給計画をたて残余財産を残さないようにすることもできます。

いまから準備しておけば大丈夫。
できるだけ法人に財産を残さないようにして解散するといいんだ。

国に財産を持っていかれてしまうというのはショッキングな事実ではありますが、計画的に解散すればお金を守ることが可能ですから、これを理由に法人化を恐れる必要はありません。

なお、2007年3月31日以前に設立した法人で、まだ持分がある場合(経過措置型医療法人)は、定款に基づき、出資持分に相当する財産の払戻しを請求することができます。


 

今回はさまざまな医療法人化のデメリットを見てきました。

医療法人って面倒なことや注意しなきゃいけないことが多そうだね。
嫌になってきちゃった。

医療法人化すると、手続きの手間やさまざまな出費が増え、法人の乗っ取りなど運営上の心配事も増えます。
決していいことばかりではないという事がお分かりいただけたでしょうか?

法人化を検討する際には、しっかりシミュレーションをし、メリット・デメリットの両面を考えて後悔の無いようにしたいものです。

面倒な手続きや運営の相談は専門家にお願いするのが賢明だね。
それに医療法人のいいところもたくさんあるよ。

医療法人化のメリット

節税については、当サイトを監修して頂いた
提携の税理士に相談していただくことも可能です。