MS法人の活用

医業経営

この前、タヌ田さんに「MS法人を作ると得だよ」って教えてもらったんだ。
ぼくも真似しようかな。
たしかにMS法人の設立でメリットがあるケースもあるけど…
必ず得をするというわけではないし、デメリットもあるよ。
思い込みだけで設立するのは危険だね。

1.法的には一般の会社と同じ

医業関係者であれば、頻繁に耳にする
「MS法人(メディカルサービス法人)」という言葉ですが、
実は俗称であり、法的には「MS法人」という法人は存在しません。

一般的には、
医療機関と不動産賃貸など何らかの取引を行う同族経営の法人のことを指し、
形態としては株式会社や一般社団法人などがあげられます。
ですから設立時は、医療法人のように監督官庁などの認可が必要ないことが多いのです。

ほとんどのケースでMS法人は、節税目的や、医療法人ではできない営利事業を行うために設立されています。

MS法人は特別な会社だと思っていたけれど、
法律的には普通の会社なんだね。

でも節税のためにMS法人を設立する場合が多いなら、
やっぱり設立したほうが得なんでしょ?

それが必ずしも MS法人⇒節税 とはならないんだ。

節税目的でMS法人を設立するケースは多いかと思いますが、
MS法人設立は必ずしも節税になるとは言えません。

2.消費税という問題

社会保険診療報酬は非課税とされています。
また、社会保険診療報酬を収入の柱としている医療機関の多くは、免税事業者に当てはまります。

一方で、年間課税売上が1,000万円を超えるMS法人は、課税事業者とされ、
診療所の運営だけであれば支払う必要の少なかった
消費税を支払わなくてはいけなくなるということです。

つまり、自由診療収入が多い診療所は別ですが、
社会保険診療をメインにする診療所の場合、結果的に「MS法人=節税」とはいかないケースが多いのです。

これは消費税が10%に増税された今、ますます見逃せません。
まずはこのデメリット面を踏まえて、メリット面を見ていきましょう。

3.個人診療所がMS法人を作るメリット

個人診療所とMS法人の取引では、節税面で得をするケースが多くあります

(1)所得の分散

院長やその親族をMS法人の役員にし、それぞれに役員報酬を支払うことで、家族全体の課税額が小さくなります。

つまり所得税は累進課税ですので、所得の分散によって全体の課税額を抑えることが出来るのです。

所得税の税率

900万円以下 23%
1800万円以下 33%
4000万円以下 40%
4000万円超 45%

(2)所得税→法人税

すでに見たように、累進課税である所得税は所得が多くなるほど税率が高くなっていきます。
例えば年収1,800万円を超えるドクターは、住民税を含めると所得の50%ほどを税金として納めることになってしまいます。

一方、MS法人の実効税率は現在30~35%と言われています。
所得を分散させることに加えて、診療所の業務を部分的にMS法人に委託する形をとれば、さらに院長の所得すなわち所得税を抑えることができます。

つまり所得金額が多い院長ほどMS法人を活用した節税が期待できるのです

(3)その他のメリット

  • 役員報酬には所得控除を受けられます。
  • 役員を被保険者とした生命保険に加入すると、支払った保険料を、部分的に法人の経費として計上することができます。
  • 役員に対して退職金を支給できます。

以上のように、MS法人を設立するメリットは、
医療法人化のメリットと共通する部分があります。

しかしながら
医療法人には廃業の手続きの煩雑さというデメリットがあります
そのため後継者がいない場合は、
医療法人化せずにMS法人を活用するという選択も有効でしょう。

4.医療法人がMS法人を作るメリット

結論から言うと医療法人の場合、MS法人設立が節税につながらないことは多いのです。
その原因はやはり消費税の存在です。

それじゃあ、医療法人の場合は
MS法人を作るメリットはないんじゃない?

それを差し引いてもMS法人を設立するメリットはあるでしょうか。
考えられるMS法人のメリットを以下に挙げてみましょう。

(1)所得の分散

個人開業の場合と同様ですが、親族をMS法人の役員にし、
所得を分散させることで所得税額を抑えることが出来ます。

ただ、医療法人の役員とMS法人の役員の兼務は不適切とされていますから、
院長(医療法人の理事長)本人がMS法人の役員に就任することはできません。

(2)医療とそれ以外の経営の分離

診療報酬請求や窓口会計のような事務業務をMS法人に委託することで効率化が期待でき、
診療に専念しやすい環境を作ることができます。

また、お金の動きが分離されて把握しやすくなります。

(3)医療法で規制されている事業を行う

MS法人を利用すれば、不動産事業、化粧品や医療機器の販売など、医療法人では行えない営利活動が可能になります。

新たな事業展開が見込めるとともに、万一医療法人が乗っ取られた場合に備え、財産を失うリスクを分散することが可能です。

(4)相続対策

医療法人の土地代や建物賃料を被相続人に支払っていると、
被相続人の資産はどんどん膨らんでしまいます

そこでMS法人に土地や建物を売却し、保有させれば地代・賃料はMS法人に入り、
将来的な相続税の節税に繋がる対策をとることができます。

また同時に、医療法人の出資持分の評価が高騰することを防げるので、
事業承継の際のハードルが下がります。

MS法人と子への相続

MS法人の代表者は医療法人の理事長と違い、医師資格を有している必要はありません。
将来のことを考えて、医師である子供を医療法人の後継者に、医師でない子供をMS法人の代表者にするといった形も考えられます。

(5)資金調達

MS法人では、医療法人では不可能な株式や社債発行による資金調達、
不動産を担保とした融資を受けることも可能となります。

MS法人で調達した資金を医療法人に貸し付けることで、
医療法人の資金調達を叶えることができるのです。


このように医療法人のMS法人設立にもいくつかのメリットが考えられます。

しかし事業税や消費税の負担もありますから、やはり設立は慎重に検討すべきです。

5.MS法人に関する規制

(1)取引状況

平成29年4月2日以降、
医療法人とMS法人を含む関係事業者との取引状況を
都道府県知事へ届け出ることが義務付けられました
(「関係事業者との取引の状況に関する報告書」)。

MS法人と取引をしている場合、料金が適切か等をチェックされる可能性があります。

ですから、取引金額の算定根拠を明確にする契約書を作成する、という2点を心掛ける必要があります。

(2)MS法人の役員

以前より医療法人の役員とMS法人の役員の兼務は非営利性の観点から
好ましくないとされ、是正指導の対象となっています。

医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について – 厚生労働省(H24.3.30)[pdf]

ただし、上記通達にもあるように
医療法人と取引がある営利法人に関してのみ役員兼務が問題になります。
医療法人と一切関係ない営利法人の役員を兼務したり、代表取締役になることは問題ありません

また、個人開業の院長がMS法人の役員になることも問題ありません

すでに見てきたように、MS法人を設立することで
医療法人の所得を合法的に分散させることができます。

しかし、医療法人とMS法人との取引は税務上問題視されることが多々あり、
行政からのチェックも年々厳しくなってきていることも忘れてはなりません。


結局のところ、得なのか損なのかわからないなあ。
そんなに簡単に答えは出ないよ。
専門家と一緒にじっくり検証してみなくちゃね。

いかがだったでしょうか。

MS法人設立が今の経営に得なのか損なのか、直ちに判断することは不可能です。
加えて、節税にはさまざまな方法論があります。
法人設立に踏み切る前には必ず専門家のチェックを受け、計画的に進めることをお勧めします。

節税については、当サイトを監修して頂いた
提携の税理士に相談していただくことも可能です。