今後医業関連のお仕事を希望される人や、お医者様のご家族など、そう感じていた方は多いのではないでしょうか?
医療法人は個人診療所や、一般法人とはどのように違うのでしょうか?
じっくり解説しましょう。
1.医療法人を定義するなら
「医療法人」については、医療法で以下の通り定められています。
第三十九条 病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
医療法 第六章
2 前項の規定による法人は、医療法人と称する。
つまり簡単に言うと、医療法人とは
または介護医療院の開設を目的として設立される法人
です。
日本の医療機関(病院・一般診療所・歯科診療所)のうち医療法人が占める割合は約35%で、個人の53%に次いで多くなっています。(平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況)
2.医療法人には、いろいろな種類があります
医療法人は、大きくは次の3つに分けられます。
「持ち分の定めのある」社団医療法人
「持ち分の定めのない」社団医療法人
財団医療法人
「持ち分」って、聞きなれない言葉ですよね?
一言でいうと「財産権」のことなんですが、詳しくはここでは触れずに別の記事で説明します。
ここでのポイントは、法改正により
2007年4月以降は
「持分の定めのある」医療法人は設立できなくなった
という点です。
そして、2019年現在の医療法人の種類別の比率をみると、
財団医療法人は1%ほど しかなく、
2007年以降に設立された「持ち分なし」社団医療法人は約20%程度で
「持ち分あり」社団医療法人が医療法人全体の約80%とそのほとんどを占めています。
医療法人数の推移(平成31年3月31日現在)(xlsxファイル)
ただし、今後はもう「持ち分あり」の医療法人は設立ができない点と
厚生労働省は、現在ある「持ち分あり」医療法人についても、
「持ち分なし」医療法人へ 移行させる制度を以前から始めており
これからは「持ち分なし」社団医療法人の比率が上がっていくことになります。
「持ち分なし」医療法人を選択することになるんだね?
厳密には、財団医療法人も作れるし、既存の「持ち分あり」医療法人も
残っているから、その法人を引き継ぐことも可能だよ。
でも、ほとんど「持ち分なし」医療法人を選択することになるだろうね。
こちらに書いた他にも、 医療法人の種類は細分化されていてそれぞれに特徴があるのですが、それについても別の記事でくわしく説明します。
3.何のために医療法人制度は生まれたのか?
日本に「医療法人」の制度が生まれたのは昭和25年になります。
では、 何を目的として制定されたのでしょうか?
本法制定の趣旨は、私人による病院経営の経済的困難を、医療事業の経営主体に対し、法人格取得の途を拓き、資金集積の方途を容易に講ぜしめること等により、緩和せんとするものであること。
医療法の一部を改正する法律の施行に関する件(昭和 25 年 8 月 2 日)
さらに、
医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない。
医療法 第四十条の二
とも書かれています。
これが医療法人の大きな特徴である「非営利」というポイントにもつながっていきます。
4.「非営利性」が求められている
すでに見てきたように医療法では、医療法人は運営の透明性を確保したうえで地域に良質な医療を提供するよう務めることが明記されており、厳格な非営利性が求められています。
この点で、個人診療所や一般的な株式会社とは大きく異なります。
具体的には、下記のように定められています。
第五十四条 医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
第七条 6 営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。
当然ながら「非営利」だからといって、診療所としての利益を求めることが禁じられているわけではありません。何ができて、何ができないのか、別の記事で詳しく解説していきます。
5.医療法人の「社員」って?
社員って正社員のことじゃないの?
と思いがちですが、医療法人における「社員」はいわゆる会社員とは全く別のものです。
医療法人における最高意思決定機関は、社員で構成される「社員総会」です。
社員総会で選任された理事からなる「理事会」で、法人の代表「理事長」を決定します。
よく言われるのが、医療法人の「社員」は、株式会社の「株主」に近いということです。
確かに、組織の最高意思決定機関という点では同じであり非常に近いと思いますが、
とはいえ全く同じというわけでもありません。
ではこの医療法人における「社員」と、株式会社の「株主」との違いは何でしょうか?
株主の議決権は、持っている株数で決定します。
対して、社員は全員が1人1票の議決権を持っており、
加えて、出資の有無は問われません。
その一方、社員は株主配当のような配当を受け取ることができない点も覚えておきましょう。
6.煩雑な手続き
通常の株式会社を設立しようとした場合、それほど難しい手続きはなく、一週間程度で設立が完了します。
申請時期も限定されません。
一方で、医療法人の設立には、通常診療所を開設する際の手続きに加え、
都道府県への認可申請を中心に、非常に多くの手間と時間を必要とします。
東京都の場合だと、初回の申請から設立までには少なくとも半年以上かかり、さらにそこから診療所の開設手続きが必要になります。
さらに認可申請時期も年に2回のみと限定されていて、一度申請に失敗して1年以上経っても未だに設立ができないという話も少なくありません。
※申請時期等は都道府県、政令都市によって異なります。
法人設立した後も、いろいろとやることがあるんだ…
設立後は、下記のように定期的な運営の義務が課されます。
- 決算報告の届出(年1回)
- 資産総額の登記(年1回)
- 役員重任の登記(2年に1回)
- 社員総会の開催(年2回)
- 理事会の開催(年2回)
- 監事による監査(年1回)
その他でも、法人内になんらかの変更がある場合には届出や認可取得などが必要になり、これらの手続きを科すことで、法人運営の透明性を確保しようという意図があります。
医療法人化にはメリットとデメリットの両方が考えられ、各々の状況によって、法人化が有利に働くかそうでないかは変わってきます。事前にしっかりシミュレーションして、見極めることが必要です。
医療法人化のメリット・デメリットについて、詳しくは別の記事で説明します。